現在、医療の現場にMRI(磁気共鳴断層撮影)という、磁気を利用した新しい検査技術が導入されるようになってから、無症候性脳梗塞(むしょうこうせいのうこうそく)という、いわば″隠れ脳梗塞″が多数見つかるようになり、にわかに注目を集めています。
そこで今回は、隠れ脳梗塞は前兆や症状がない!危険な脳梗塞予防とチェックの仕方!について千葉脳神経外科病院の水上氏と日赤医療センター神経内科の作田氏の意見とともにお話しします。
隠れ脳梗塞「無症候性脳梗塞」に注意
頭蓋骨を開かずに脳の中を見る
検査機器としてすでにX線を用いた
CT (コンピュータ断層撮影)がありましたが、これでは非常に小さい、数ミリしかないような
無症候性脳梗塞(むしょうこうせいのうこうそく)は見逃されていたのです。
しかし
MRIを導入した脳ドック(脳検診を行う施設)が各地に開設されるようになってから、なんの異常もないような元気な人に、きわめて小さな脳梗塞が多数発見されるようになってきたのです。
無症候性脳梗塞は脳梗塞の前兆と症状がない
本格的な脳梗塞であれば、
片側の手足が動かしにくくなる片マヒが起きたり、
ろれつが回らなくなるなどの症状を
伴うことが知られていますが、
無症候性脳梗塞(むしょうこうせいのうこうそく)には
そういった症状はありません。
症状がないから、
無症候性脳梗塞(むしょうこうせいのうこうそく)
という名前がつけられたほどです。
病院でも脳ドックを開設していますが、
その開設以来、あまりにも多数の人に無症候性脳梗塞が見つかっています。
これまでの3000名のデータを分析すると、
なんと43% (1269例)に無症候性脳梗塞(むしょうこうせいのうこうそく)が発見されています。
しかも、その発見率は年齢が高くなるにつれてふえていきます。
たとえば、
30代で5%
40代で18%
50代で38%となり
60代になると55%と約半数に見つかり
70代ともなると71%というように高率に認められるのです。
なお、表では八十代では発見率が減少していますが、
これは受診者が少なかったためで、
受診者がふえれば七十代のように高率で見つかると考えられます。
隠れ脳梗塞はボケにつながる
では、こうした無症候性脳梗塞(むしょうこうせいのうこうそく)は
私たちの体にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
残念ながら、無症候性脳梗塞は
比較的最近見つかるようになった医学的な所見であり、どれがどのような意味を持つのか、まだ明確にはされていません。
加齢とともに発見率がふえることから、無症候性脳梗塞(むしょうこうせいのうこうそく)を単なる老化現象の一つとする意見もあるほどです。
しかし、はっきりとした症状はなくても、
小さな脳梗塞の多発が日本人に圧倒的に多いボケのタイプである脳血管性痴呆(のうけっかんせいちほう)につながっていく可能性は十分に考えられることです。
また、追跡調査では
無症候性脳梗塞(むしょうこうせいのうこうそく)が、将来的には脳卒中になる危険性が高くなることが明らかにされています。
私たちの脳ドック受診後、
一年四ヵ月から四年経過した人のうち、無症候性脳梗塞(むしょうこうせいのうこうそく)が見つかった人455人を調べたところ、そのうち14例は本格的な脳梗塞、一例は脳出血を起こしていました。
無症候性脳梗塞の見つかった人の3.1%の割合で、本格的な脳梗塞が起きているのです。
一方、受診時―正常だった人916人を調べると、脳梗塞の人はわずか一人(0.6%)でした。
これは、無症候性脳梗塞(むしょうこうせいのうこうそく)の人は、正常な人に比べて本格的な脳梗塞が起こりやすいことを教えています。
ボケの問題や脳梗塞のことを考えるなら
無症候性脳梗塞(むしょうこうせいのうこうそく)といえども、油断をすべきではありません。
40歳を過ぎたら脳梗塞検査(脳ドック)を受けよ
とはいえ、症状がないものをどうやって注意したらいいのか、と思われる方もいるでしょう。
最善の策は、
四十歳を過ぎたら、脳ドックを受診することです。
これは単に無症候性脳梗塞を見つけるだけではなく、
脳の動脈にできる動脈瘤を発見して、
四十歳以降に多発するクモ膜下出血
(脳卒中の一種で、死亡率が高い。多くは動脈瘤が破裂して起こる)
の予防にもつながります。
無症候性脳梗塞の症状とは
さらに、無症候性脳梗塞といっても、
よく調べてみると、軽い頭重やめまいなどの症状がある場合もあることがわかっています。
そこで、次のような症状が目立つようなら、検査を受けるようおすすめします。
1.カゼでもないのに、頭痛、頭重が続く
2.貧血や耳の病気がないのにめまいがする
3.ひんばんにのぼせる
4.手足のしびれがある
5.真っすぐに歩けず、左右のどちらかにかたより、歩行が不自由
6.舌がもつれる
7.じっとしていても手の指がふるえる
8.文字が右上がりか右下がりになってしまう
9.直線が書けない
10.ハシが上手に使えなくなった。物をつかめず、口に運ベない
11.視力が低下しはじめた
12.文字や物が二重に見えたり、ゆがみ、ゆれて見える
13.視野がときどき狭くなる
14.卒倒したことがある
15.物忘れが多くなった
16.集中力が弱くなった
これらの症状はまた、本格的な脳卒中の前兆となっていることがありますので注意しましましょう。
隠れ脳梗塞を見つけるチェック表
もう既にお話ししましたが、
最近、脳梗塞の中でも注目されているのが、「無症候性脳梗塞」と呼ばれるタイプです。
これは、
小さくて自覚症状をほとんど伴わない
“隠れ脳梗塞”とでもいうべきものです。
はっきりした症状がないといっても、
無症候性脳梗塞が見つかったら、
将来本格的な脳梗塞を起こす危険性が高いので、
十分な注意が必要です。
そこで、
無症候性脳梗塞を見逃さないためのポイントと、
無症候性脳梗塞が見つかったときの対処法についてお話ししましょう。
まず、無症候性脳梗塞を見逃さないために、
ぜひおすすめしたいのが、ご自分の「脳梗塞危険度」を知っておくことです。
これは、脳梗塞の危険因子として、
とくに重要なコレステロール、高血圧、糖尿病、喫煙の四つについて、次での表のように点数を出すものです。
健康診断や検査のデータさえあれば計算できますから、以下の要領で点数を出してみてください。
あなたの脳梗塞危険度がわかるチェック表
C (コレステロール指数)
=健康診断の結果などで通知される総コレステロールの値を、HDLコレステロール(善玉コレステロール)の値で割ります。
小数点以下を四捨五入し、点数として書き入れます。
H (高血圧指数)
=表の条件に当てはまる場合、2点か1点を書き入れます。
D (糖尿病指数)
=ふだん、健康診断などで血糖値が正常値なら0点、糖尿病であったり、その傾向がある人は、表の条件にしたがって点数を書きます。
S (喫煙指数)
=習慣的に喫煙している人は1点、そうでない人は0点です。
合計が6点以上なら、脳梗塞を起こす危険性が高いといえます。
脳梗塞についてはこちらもご覧ください。
その場合は、ふらつきや頭重程度の症状でも、
無症候性脳梗塞を疑ってMRI(磁気共鳴断層撮影)などによる検査を受ける必要があります。
おわりに
もし無症候性脳梗塞が見つかった場合は
必要に応じて脳血栓を予防する薬(抗血小板剤)や脳の血流をよくする薬を使う一方
右の脳梗塞危険度をへらすよう努めることが大切です。
脳梗塞の改善や予防についてはこちらもご覧ください。
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